ワインと健康

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ワインはディオニュソスの贈り物


本日の地中海式ダイエット食談会は皆さんも大好きなワインの話です。スライドには三日月型の船に乗るディオニュソスが描かれています。ディオニュソスはギリシア神話の酒神。ローマ時代にはバッカスと呼ばれ、悩み多き人間に酒(ワイン)をプレゼントした神といえば親しみもわいてきます。ギリシア神の王ゼウスと妾の間に生まれたディオニュソスは、ゼウスの正妻ヘラの嫉妬を受けて身の危険を感じたため、ご覧の船に乗って旅に出ました。肩にもたせかけている筒型の容器にはワインが入っており、旅の途中、寄港して人間に会うと、そのワインをふるまいました。


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昔のワインは濃かったので、水で薄めて飲んだと伝えられています。そしてワインを原酒のまま飲むことができたのはデュオニュソスだけでした。適量のアルコールは、人間から憂いを取り去り、元気づけ、ストレスが原因となる病気の予防に役立つけれども、飲み方には注意が必要であるという戒めのようにも聞こえます。

 

古代医学の祖であるヒポクラテスは、「ワインはもっとも美味しい食べ物であり、飲み物であり、薬である」と言っています。東洋でも王莽(おうもう)という中国の皇帝が、「塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の好」(塩は食物の将帥、酒はあらゆる薬に勝り、めでたい宴会に不可欠である)と記しています。酒は天から賜った貴重な飲み物で、王はこれを俸禄として与え、人民を養い、その幸福を祈る義務があるという考え方です。どちらも酒は衰弱した者を力づけ、病の者を回復させるという点では共通していますが、ワインは食事の一部であるというところに食中酒としてのワインの特徴が表れています。


 

フレンチパラドックスとは

 

さて話を現代に戻しましょう。赤ワインの心臓病に対する効能は広く知られています。フランス人は脂っこい肉やチーズを好み、また生クリームやバターを使って調理するなどこってりとした食事をとります。そのために血中コレステロール値が高いにもかかわらず、心筋梗塞による死亡率は低いという不思議な現象が知られていました。これがフレンチパラドックスです。研究の結果、注目されたのが赤ワインでした。フランス人は世界一ワインを飲む国民であり、とくにカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールなどポリフェノールの多い赤ワインにフレンチパラドックスの謎を解く鍵があったのです。


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右図をご覧ください。世界各国諸都市における人々の、心筋梗塞の年齢調整死亡率(縦軸)と血清コレステロール値(横軸)の関係を示しています。右下に位置するオルレアンはフランス中部に位置する都市です。総コレステロール値は230mg/dl と、他の諸都市と比べて高く、しかし心筋梗塞による死亡率は低いという特徴があります。

 

フランスよりコレステロール値が低くても心筋梗塞の死亡率が高い地域、ストノウェイやベルファスト(GBR)があり、こうした地域では野菜や果物などの摂取量が少なく抗酸化物質を十分に取っていないことが考えられます。逆に言うと、心筋梗塞による死亡率の低い地域には、それぞれ食生活の中で抗酸化物質を多くとる習慣があるのです。それをコレステロール値が高い順にまとめると、次のようになります。

 

1)フランスでは肉など動物性脂肪の摂取量が多く、血清コレステロール値が高い。ポリフェノールの多い赤ワインの消費量が世界一であり心臓病の予防に役立っている。

2)リスボンやマドリッドなどでは、バターの代わりにオリーヴオイルを用い、肉食はほどほどで、コレステロール値は中等度にとどまる。野菜や柑橘系の果物の消費量も多く、いわゆる地中海式食事をとっていることが心臓病の予防に役立っている。

3)日本や中国では肉食はもともと少ないのでコレステロール値は低いが、抗酸化物質(イソフラボン)の多い大豆製品をよくとることも心臓病の予防に役立っている。

  

Male cardiovascular mortality and dietary markers in 25 population samples of 16 countries. J Hypertens. 24:1499-1505, 2006. Yamori Y et al.


 

アルコールにはどんな栄養素が含まれているか

 

アルコール栄養.jpgさまざまな食品から抗酸化物質を多く取ることが心筋梗塞による死亡率を下げること、とくにフランス人は赤ワインから抗酸化作用の強いポリフェノールを多く取っていることがわかりました。しかしだからと言って飲み過ぎは禁物。酒は百薬の長と同時に、百毒の長という諺もあるのです。

 

ここでワインに限らず、一般的に酒類に含まれる栄養について考えてみましょう。アルコールの科学的エネルギー量は1gあたり7キロカロリーですが、体内の代謝過程で生理的なエネルギー値は5キロカロリーにとどまります。とは言っても、糖質やタンパク質のエネルギー量(各々1g4キロカロリー)と比べれば、アルコールは高エネルギー源であることは間違いありません。さらにアルコールには食欲亢進作用もあり、清酒やビールなどの醸造酒には栄養素として糖質が含まれるので、飲み過ぎるとエネルギー過剰から肥満、糖尿病、脂質異常症を招くのです。

 

表4は酒類の栄養素含有量を示しています。先にお話ししたとおり醸造酒である日本酒、ビール、ワインには糖質が含まれています。醸造酒には微量ではありますがカリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラル、とくにビールにはアルコール代謝に関わるニコチン酸が含まれるという特徴があります。(出典:「お酒の健康科学」 アルコールと健康研究会編 金芳堂)


今日のテーマであるワインには、この表に表れてこない成分として豊富なポリフェノールが含まれています。ポリフェノールは植物が光合成で作り出す色素や苦みの成分で、花びら、果実、茎などに多く含まれる抗酸化物質です。暖かい南の気候風土で栽培され、太陽の直射日光を浴びるブドウは、自分自身を酸化の害から守るためにポリフェノールを生み出します。

 

赤ワインに含まれるポリフェノールは一つではありません。ブドウの果皮にはアントシアニン、リスベラトロール、種子にはカテキン、タンニン、ケルセチンなどが含まれ、赤ワインは一般に渋みが強いほうがポリフェノールが多く、抗酸化効果が高いといわれます。赤ワインは黒ブドウの果実を丸ごと醸造して作られるのに対して、白ワインは白ブドウの果汁のみを発酵させるため、ポリフェノール量は赤ワインの10分の1しかありません。


赤ワインのポリフェノールはその抗酸化作用によってLDLの酸化変性を抑制すると同時に、血管内皮細胞機能を改善して血管を拡張し、また血小板凝集を抑制したり、心筋細胞の保護作用もあります。そのような理由で適度に赤ワインを摂取すると心筋梗塞など冠動脈疾患による死亡率が低くなるのです。



東洋人はアルデヒド脱水素酵素の活性が低い


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最後に肝臓におけるアルコール代謝経路を示します(出典:「お酒の健康科学」 アルコールと健康研究会編 金芳堂)。まずアルコールは肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によって酸化され、アセトアルデヒドに変わり、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きで酢酸に分解されます。

 

専門的になりますが、これらの代謝には、ニコチン酸(ビタミンB3、別名ナイアシン)がもとになっているNAD、NADHが補酵素として関わっています。大量常飲者ではニコチン酸が消費されペラグラという病気を起こすことがあります。また常飲者ではアルコール代謝過程でNADHが増えることで、肝臓内に中性脂肪が増加して脂肪肝になります。

 

お酒を飲んですぐに顔が赤くなる人は、アセトアルデヒドが分解されずに血液中に蓄積しているためです。つまり遺伝的にALDHの活性が低いためで、さらに細かく言うと、ALDH2と呼ばれる2型アルデヒド脱水素酵素をもたないことに原因があります。東洋人は西洋人に比べてアルコール依存症の発生が少ないといわれていますが、日本人はALDH2を持たない人が40%もいて飲めない体質の人が多いという人種的・遺伝的差異がその理由の一つと考えられています。

 

アセトアルデヒドは毒性が強く、ALDH活性の低い、いわゆるお酒に弱い人では、一気飲みなどによって、頭痛や顔面紅潮をきたして気分が悪くなり、さらには中毒症状をきたして生命が脅かされることもあります。そのような理由で、今日のテーマであるワインが心臓病の予防に役立つとは言っても、まずは自分が飲める体質か飲めない体質かをきちんと知った上で、お酒は食事をとりながら、のんびりゆっくり、ほどほどに飲むことが大切です。


 

この文章は2011.11.26に行われた、第10回地中海式ダイエット食談会の講演内容をまとめたものですなお、この食談会の内容は「美味しくて健康的で太らないダイエットなら地中海式」佐々木巌著、大学教育出版 に詳しく記載されています。