地中海式食事法は肥満や糖尿病を予防するか

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日本、地中海地域のどちらも食生活が変化し、肥満が社会問題化している

近年日本で、肥満や糖尿病の患者さんが増えている原因として、運動不足と食生活の欧米化が指摘されています。食生活の欧米化とは、ご飯を主食とした和食の食習慣が薄れ、魚を食べる代わりに脂の多い肉食と、ソフトドリンクやスナックなど糖分、塩分の多い間食の機会が増えてきたことを意味します。動物性脂肪の多い肉の取りすぎは、身体の中でインスリンの働きを悪くしますし、吸収されてすぐ血糖値が上がるような蔗糖の多い食べ物は、膵臓からインスリンの過剰分泌を促すので、この双方があいまって、内臓脂肪蓄積型の肥満(メタボリックシンドローム)や糖尿病の発症が起きるのです。


実は同じことが、現在、地中海沿岸諸国でも問題になっています。2008年7月に公開されたFAOのレポートによると、この45年間の間に、ギリシア、イタリア、スペインなど地中海諸国において肥満者が急増している実態が明らかになっています。その背景として、元来、北に比べて貧しかった南欧の人々が経済的に豊かになり、カロリーの高い動物性食品を多く摂るようになったことがあげられます。またスーパーマーケット進出による食品流通の変化、女性の社会進出、ファストフードレストランでの外食の増加などの要因によって、伝統的な地中海の食事に代わって、より脂肪が多く、塩分過多で、甘い食べ物をとるようになったためと分析しています。

http://www.fao.org/newsroom/en/news/2008/1000871/index.html

 


地中海式食事法を知ることは、和食の利点を考えるヒントにもなる

1960年頃の南イタリアやギリシアに暮らす人々の伝統的な食生活が、今日の地中海式ダイエット(食事法)のモデルになっています。その特徴として、穀物からなる主食をきちんととり、野菜や果物、豆類、種実類などの副菜を毎日とることがあげられます。当時の食事内容をもとに作られた地中海式ダイエットのピラミッドを見ればわかるように、甘い菓子や、脂の多い獣肉をとる頻度は少なく、脂肪源としては植物性のオリーヴオイルが主で、動物性のものとしては脂の少ない鶏肉や、良質の脂を含む魚を適宜とることが一般的です。肥満者や糖尿病患者の増加は、地中海諸国も日本も事情は同じです。とくに塩分、脂肪分の多いファストフードやスナック、甘いソフトドリンクの摂取機会の多い青少年の肥満対策は、子供のうちから、社会全体で彼らの食生活、食習慣を正しく導くことができるか否かにかかっていますが、家庭の役割がもっとも重要であることは疑いを入れません。


つまり、健康的な食事の世界的スタンダードである地中海式ダイエット(食事法)のルールを知ることは、食の欧米化と呼ばれる今日の世界規模の食生活の変化に流されることなく、自分自身が健康的な食生活を続けるための確かな視点を持つことになり、併せて私たち日本人が和食の利点を再認識することにもつながるでしょう。



地中海式食事法のエビデンスは豊富ー肥満、糖尿病の予防効果について

日本と異なり、地中海式食事法に関する疫学的、医学的エビデンスは豊富です。伝統的な地中海の食事が肥満を防止するエビデンスとして、1999-2000年にかけて北スペインで実施された断面研究(男女3162名)があります。伝統的な地中海の食パターンに忠実であればあるほど、男女ともに有意に肥満リスクが低下し、もっとも地中海食の遵守率が高い人は、遵守率の低い人と比べて、男女ともに39%も肥満リスクが少ないという結果が出ています。地中海の食事に忠実なグループは健康志向が高いので、身体活動量が多く喫煙率は低いのですが、そうした交絡因子をすべて補正した解析結果です。

Adherence to the traditional Mediterranean Diets is inversely associated with body mass index and obesity in a Spanish population. J.Nutr. 134:3355-3361,2004. 


糖尿病予防に関するエビデンスとしては、同じくスペインで行われた前向きコホート研究があります。こちらは13380人の大学卒業生を対象として日常の食習慣を4.4年追跡調査し、地中海食の遵守度が最も高い人は最も低い人に比べて、新規に糖尿病になる確率が83%も低かったのです。地中海食の遵守度は9点満点のスコアーを用いて評価していますが、スコアーが2点増えると相対リスクは35%も低下しました。

Adherence to Mediterranean diet and risk of developing diabetes: prospective cohort study. BMJ. 336:1348-1351,2008.



オリーヴオイルを多用する地中海食は、脂肪摂取過多から太る心配はないか

穀物など植物性食品を豊富に摂り、オリーヴオイルを主たる脂肪源とする地中海食では、総カロリーに占める脂肪割合は30%を超えることもあります。オリーヴオイルは体に良いといっても、脂肪(高カロリー)であるには違いないので、実際、本当に太る心配がないか気になります。


2008年に発表されたイスラエル研究者による無作為割付臨床試験では、中等度の肥満のある322人を、低脂肪でカロリー制限した食事、脂肪とカロリーが適度に制限される地中海食、炭水化物を制限しカロリー制限なしのアトキンスダイエット食の3群に振り分けて、2年間の体重変化を観察しました。するとアトキンス食と地中海食は、脂肪制限食より有意に体重が減少(4.7kg、4.4kg対2.9kg)しました。地中海食は総カロリーが男性1800kcal、女性1500kcalで、脂肪摂取量は35%以内、主たる脂肪源はオリーヴオイル(30-45g)とナッツ(20g以下)でした。この結果から、カロリー制限を守った地中海食による減量効果は、脂肪摂取率が高くても、他の減量法に比べて遜色ないことが確かめられました。

Weight loss with a low-carbohydrate, mediterranean, or low-fat diet. NEJM. 359:229-241, 2008.



植物性食品が豊かな地中海式の特徴ーグリセミックインデックスと食物繊維

ここでもう一つ、地中海の食事には全粒穀物のシリアルやパン、野菜、果物など食物繊維が多く含まれ、かつアルデンテのパスタや豆類、種実類など、グリセミックインデックスが低い食物や調理形態が多いという特徴があげられます。このような食物を6ヶ月間摂り続けることによって、2型糖尿病の患者のHbA1cが改善したことが報告されています。

Effect of a low-glycemic index or a high-cereal fiber diet on type 2 diabetes. JAMA.300:2742-2753, 2008.



まとめ

地中海式ダイエット(伝統的な地中海式食生活)の、肥満や2型糖尿病に対する予防メカニズムをまとめます。

肥満予防には

1 食物繊維が多いこと

2 主たる脂肪がオリーヴオイルである

3 地中海食では食物重量あたりのカロリーが低い(野菜や果物など、食物繊維、水分が高く低エネルギー食である)

などがあげられます。


また糖尿病予防には、

1 肥満、とくにインスリン抵抗性を促進する内蔵脂型肥満を防ぐ

2 抗酸化作用のある野菜や果物が酸化ストレスを軽減し、インスリン抵抗性や膵β細胞の破壊を防ぐ

3 地中海式食事に含まれる野菜、豆類、種実類はマグネシウムが豊富であり、糖尿病の発症を予防する

4 適度な飲酒はアディポネクチンを増やしインスリン感受性を高める

5 グリセミックインデックスの低い食物や、シリアルなどに含まれる食物繊維は、糖の吸収速度を緩めることで血清インスリンを軽減する

6 糖尿病の発症を高める飽和脂肪酸(獣肉など)の摂取が少ない

などが理由としてあげられます。

Protective mechanisms of the Mediterranean diet in obesity and type2 diabetes. J Nutr Biochem. 18:149-160, 2007.

 

この文章は、2009.6.6に行われた第二回地中海式ダイエット食談会の講演内容をまとめたものです。なお、この食談会の内容は「美味しくて健康的で太らないダイエットなら地中海式」佐々木巌著、大学教育出版 に詳しく記載されています。

 

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