高齢化社会を迎えた今、地中海式食事法が注目されている

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生活習慣と健康長寿には強い相関性がある

日本を始めとして先進国では、高齢化に伴って起きる健康障害が大きな社会問題になっています。加齢による老化現象は、血管や神経組織、また遺伝子(DNA)にも影響を及ぼし、老化が生理的な範囲を超えて病的に進行すれば、心臓病、脳卒中、アルツハイマー型認知症など神経の変性疾患、がんを引き起こします。加齢(aging)は何人もまぬがれない生理的変化ですが、誰しも出来る限り健康で生きがいのある人生を送りたいと願っています。


精神的にも肉体的にも病気にならず、天寿をまっとうするために、私たちは日常どんなことに注意してゆけばよいのでしょうか。病的な老化を防ぐ手だてはあるのでしょうか。そうした疑問に対するひとつの解答が、2004年9月、米国医師会誌に発表されました。ヨーロッパ11カ国、70歳から90歳の健康な男女2339人を対象とした前向きコホート研究で、10年間の追跡調査の結果、生活習慣と長寿には強い相関があることが示されました。

 

 健康的な生活習慣のファクターとは、よい食事をとる、適度に運動をする、適度なアルコール摂取、禁煙の四つです。この四つ全てを行う高齢者は、一つしか行っていない人に比べて、65%も死亡リスクが低いという結果が出たのです。運動は一日30分ほどのウォーキング、飲酒はワインだったらグラス1−2杯を基準としていますが、よい食事のモデルとなったのが地中海の食事でした。地中海食を続けると、狭心症や心筋梗塞(虚血性心疾患)による死亡リスクは39%低下し、心血管病(心疾患に脳血管疾患を合わせたもの)29%、がん10%、全ての原因による死亡リスクが23%低下することがわかりました。

Mediterranean diet, lifestyle factors, and 10-year mortality in elderly european men and women. JAMA. 292:1433-1439,2004.

 

地中海式食事法の特徴や評価の仕方は以下に述べますが、ここで注目すべきことは、この研究の対象となった人の年齢が70歳以上の健康な高齢者であり、この研究はヨーロッパ11ヶ国に住む人々を対象とし、そこには地中海地域(イタリアやギリシアなど南欧諸国)以外に住む人々も大勢含まれていたという事実です。つまり食生活を含めた生活習慣の改善は、何歳から始めても遅すぎることはなく、地中海食は健康的な食事のモデルとして、地中海以外に住むすべての国の人にとって現実的な選択肢となる可能性が示されています。

 

 

地中海式食事法の特徴、和食との接点は

m_d_pyramid.jpgのサムネール画像地中海式食事法とは、1960年ごろの南イタリアやギリシアなど南欧に住む人たちの生活スタイルにマッチした食事のこと。地中海式ダイエットのピラミッドを見ればわかるように、その食事構成は、いわゆる地産地消型のスローフードがもとになっています。全粒粉のシリアルやパン、パスタ、あるいは芋類などを主食とし、野菜や果物、豆類、ナッツ類などの植物性食品を多くとり、同じく植物性の良質なオリーヴオイルを主たる脂肪源とします。動物性食品としては、ヨーグルトなど低脂肪の乳製品や魚介類、脂の少ない鶏肉を週に数回とり、脂の多い獣肉は少量にとどめ、このような食事とあわせてグラス1−2杯のワインを飲むスタイルが地中海食の基本です。


こうした地中海食のスタイルは、もともと地中海地域の自然や地理的特性に基づく農業・生活形態から生まれたものです。ギリシアや南イタリアの地中海性気候では、古来、旱魃に強いオリーヴやブドウ栽培が、麦などの穀物生産と併せて農業の基本であり、牧畜に必要な広い放牧地がなかったので、肉食の機会が少なかった、地中海はその名の通り周囲を海で囲まれているため魚介類をよくとったことなどが、地中海食のスタイルを生み出しました。


健康的な食事として共に名高い和食と地中海食を比べると、どんなことがわかるでしょうか。地中海食では一日の摂取エネルギーに占める脂肪摂取割合は30ー40%(その約70%をオリーヴオイルが占める)と高めで、平均25%ほどの和食と違いはありますが、元来、獣肉など動物性食品(動脈硬化のもとになる飽和脂肪酸が多い)の摂取が少なく、植物性食品や魚を多くとるという共通点が見いだされます。たとえば主食として米に、野菜や豆類、海草、きのこなどの副菜、豆腐や魚などの主菜をあわせてとる人は、個々の品目に違いはあっても、ある意味で地中海式の食事をしているといってよいでしょう。また北欧に住む人々でも、日常バターの代わりにオリーヴオイルを使い、肉や高脂肪の乳製品より野菜や豆類、ナッツ、魚をとる習慣のある人は、地中海式食事の遵守度が高いと言えます。


 

地中海食のスコアー

健康的な食事のスタンダードとなる地中海食に、自分はどれだけ近い食事を取っているかは、Trichopoulouらが提唱した「地中海食のスコアー」をみて考えましょう。すなわち、1豆類(ナッツ類)、2全粒穀物、3果物、4野菜、5魚、6オレイン酸/飽和脂肪酸、7獣肉、8乳製品(熟成度の高いチーズなど脂肪分の高いもの)、9アルコールの9項目の食品につき、1から6までの項目については平均以上に摂取する人はプラス1点、逆に7から9は少なめに取る人はプラス1点を加える合計9点満点で評価します。

Adherence to a Mediterranean diet and survival in a Greek population. N Engl J Med. 348:2599-2608, 2003


私のクリニックで行っている「地中海式ダイエット食談会」には、20代から80代までのさまざまな職種の男女が参加し、皆さん初対面の方々が多いにもかかわらず、いつも南イタリアの一族郎党が集まったパーティーのように賑やかです。パワーポイントを使った講演の中で、毎回必ず私がこのスコアーを示して、出席者の皆さんに自己採点してもらうのですが、結果は0点から9点満点までとさまざまです。最初は0点であっても、いっこうに構いません。講演後にオリーヴオイルをたっぷり使ったイタリアンを皆で会食し、こうしたスタイルの食事が身体によく美味しいと感じてもらうことで、次回お会いしたときに、健康的な意味で食生活が変化(地中海食のスコアーが増加)していればよいのです。

 

実際に地中海食のスコアーが2点増加したら、どのくらい死亡、疾患リスクが低下するかという報告があります。2008年にBMJに掲載された150万人を対象とし12件の前向きコホート研究のメタアナリシスによると、9点満点の地中海式食事のスコアーが2点増加すると、全ての死因死亡9%、心血管病による死亡9%、がんの発症あるいは死亡6%、アルツハイマー、パーキンソン病の発症リスクが13%低下するという恩恵があります。

Adherence to Mediterranean diet and health status: meta-analysis. BMJ 337: a1344, 2008.


オリーヴオイルを大量に消費することは伝統的な地中海式ダイエットの特徴ですが、日本では高品質のオリーヴオイルは高価で、そういつもは使えません。地中海食スコアーの6番目にあるオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)はオリーヴオイルの主成分ですが、スコアーはバターや獣肉に多い飽和脂肪酸との比で表されています。一価不飽和脂肪酸はナッツ類や菜種油にも含まれており、こうした食品をオリーヴオイルの代用品として用いることで、日本を始め地中海以外の国々への、このスコアーの応用範囲が広がることでしょう。


現代社会において、地中海式ダイエット(食事法)をどう考えるか

社会や生活環境が変化し、人の生活様式が変化すれば、当然食事スタイルも変わってゆかざるを得ません。地中海式食事法の原点となる1960年の南欧に暮らす人々のライフスタイルの特徴は、農耕や漁業などの仕事や屋外でのレジャー活動など幅広い身体活動が営まれる一方で、まだ大型のスーパーマーケットやファーストフードの進出がなく、栄養価の高い地産地消型の食生活が守られていたことです。こうした食を含めた生活様式全体が、心臓病やがんを予防し、健康に好影響をもたらしたのでした。


現代のように人々が慢性的な運動不足に陥り、ファストフードが幅を利かせた食環境で、私たちは地中海式食事法とどのように向かい合っていけばよいのでしょうか。地中海式ダイエット(食事法)の研究成果を見るときに、単に古典的な意味での地中海食のみならず、ライフスタイル要因のすべてが、健康的なageingと長寿に役立っていることを見落としてはいけません。地中海式ダイエットの「ダイエット」という言葉には、食生活を含め、運動や睡眠など生活様式のすべてが含まれているのです。日々運動不足にならないよう身体をよく動かす、食べ物の品質や安全性を重視しつつ、地中海食のスコアーに見られるバランスのよい食事を心がけるなど、健康的な生活習慣を実践してゆくことが大事です。

 

この文章は2009.2.28に行われた、第一回地中海式ダイエット食談会の講演内容をまとめたものです。なお、この食談会の内容は「美味しくて健康的で太らないダイエットなら地中海式」佐々木巌著、大学教育出版 に詳しく記載されています。 

 

  

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