心臓病を予防する地中海の食事とオリーヴオイル

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クリントン元大統領の心臓発作


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今日は心臓病を予防する地中海の食事とオリーヴオイルというテーマでお話しますが、まず、アメリカのクリントン元大統領が、最近心臓病発作を起こしたというニュースから始めます。

 

2010年1月、ハイチ大地震が起こってから、クリントン氏が国連の特使としてハイチを訪れ、災害地の復興援助活動を視察しました。ところが、2月11日、クリントン氏は心臓発作を起こしてニューヨークの病院に緊急入院。2本のステント挿入治療は無事成功し、翌日には元気に退院しました。ステントとは閉塞した血管を広げた状態に保つためのメッシュワイアーチューブのこと。クリントン氏は2004年に心臓病のバイパス手術を受けており、今回の心臓発作はバイパス手術を受けた人に20%以下で起きる症状であると説明されています。

Bill Clinton released from hospital, prognosis 'excellent'  http://abcnews.go.com/WN/Politics/president-bill-clinton-rushed-new-york-hospital/story?id=9810992


心臓は全身に血液を送り出すための強靭なポンプです。そのポンプは筋肉で出来ており、心臓が24時間休みなく働き続けるためには、心臓を取り巻く冠動脈とよばれる血管を介して、絶えず心筋に酸素と栄養素が供給されなければなりません。狭心症や心筋梗塞は、この冠動脈が狭窄あるいは閉塞して血流が途絶え、心臓が拍動するのに必要な酸素や栄養素が不足することで起きますが、この狭窄を起こす病因がアテロームと呼ばれる粥状の脂質沈着物で、動脈硬化と呼ばれる病態の本体です。アテロームは心臓から脳につながる大動脈や脳動脈などに出来やすく、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞という病気は再発率が高く、別の臓器で発症することも多いのです。


日本および地中海諸国で、心臓病死が少ない事実が7カ国研究が始まるきっかけとなった

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、先進国、とくにアメリカでは年間92万人に発症し、16万人が命を失う恐ろしい病気です。家族が心臓発作を起こしたなどの遺伝的な素因、高血圧、高LDLコレステロール血症が主たるリスクファクターですが、生活習慣の中でとくに関わりが強いのは食事と喫煙です。クリントン氏が持続する胸痛と息切れを経験したのが58歳の時。血管造影の結果、冠動脈の90%以上が閉塞していました。よく知られた事実ですが、大統領時代のクリントン氏はハンバーガーなどのファストフードを好み、葉巻の愛好家でした。そしてLDLコレステロール値は177mg/dlあったと伝えられています。

 

食生活と虚血性心疾患はどのような関連があるのか。こうした疑問に答えた世界初の国際共同研究が、7カ国国際研究(Seven countries study)です。1957年、アメリカ、ミネソタ大学の生理学教授であったアンセルキーズ博士は、食生活を主とした生活習慣と虚血性心疾患の関連を明らかにするために国際共同研究を開始しました。戦禍を免れ、物質面で豊かなアメリカでは、この時既に虚血性心疾患の増加が深刻な社会問題でした。この研究が行われるヒントとなったのは、南イタリアや日本で心筋梗塞が少ないという事実でした。


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右図(クリックで拡大)をご覧ください。心筋梗塞罹患率の国際比較を表しています。まずわかるのは心筋梗塞というのは圧倒的に男性に多いということ。次に左図の上からフィンランド、イギリス、カナダ、スウェーデンと緯度が高い国々で発症率が高く、イタリア、スペインなど南欧諸国では発症率が低く、日本はさらに低いことがわかります。


地域によって冠動脈疾患の発症率に違いがなぜ生じるのか、血中コレステロール値が高い地域では心臓病が多いことはわかっていたものの、コレステロール値の違いが人種差によるのか、あるいは各国の人々の食習慣など生活習慣の違いから起きるのかを調べることが、7カ国研究の大きな目的でした。



7カ国研究によってあきらかになったこと

7カ国研究に参加した国々は、心臓病が多い国の代表として、アメリカ、フィンランド(北欧)、オランダ(西欧)、心臓病が少ない国としてギリシア、イタリア、ユーゴスラビア(地中海諸国)と日本の7カ国です。1958年から1964年の間に12,763名の地域住民男性が研究対象となりました。最初の10年間の追跡調査の結果、日本およびギリシアなど地中海諸国では心疾患の罹患率が低かったのに対して、フィンランドやアメリカでは心疾患が多いことが判明しました。


各国の人々の食事内容を分析した結果、フィンランドやアメリカでは脂肪摂取のエネルギー比率が40%であり、脂肪の中でも肉やバターに含まれる飽和脂肪酸が総脂肪の半分を占めていました。これに対して、日本では総脂肪摂取比率は10%以下、飽和脂肪酸はわずか3%以下の低値を示していました。つまり米を主食とする日本では、元来、動物性を含めた脂肪の摂取量が欧米人に比べてきわめて少ないために、血中コレステロール値が低く、それが心臓病の予防に役立っていたのです。


それでは、やはり心疾患罹患率が低いギリシアや旧ユーゴスラビアなどの国ではどうだったか。エネルギー比率でみた脂肪摂取割合は20~30%であり、摂取している脂肪を分析すると、コレステロール上昇の原因となる飽和脂肪酸の摂取率は10%以下、さらに総脂肪に対する一価不飽和脂肪酸の摂取割合が高いという特徴が出ました。つまり日本と異なり、地中海諸国では日常の食事で脂肪を十分取っているが、その脂肪の種類が良質であるためにコレステロール値が上昇せず、心臓病の予防に役立っていたのです。


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左図は血清コレステロール値と心筋梗塞死亡率を表しています。集団としての血清コレステロール値が高いと、心筋梗塞死亡率が高くなるという正の相関を示しています。しかし、コレステロールはただ低ければそれでよいというわけではありません。なぜなら血中コレステロールが低い地域では脳卒中が起きやすいという事実があるからです。つまり適度な肉の摂取は身体の発育や丈夫な血管を形成するために必要なのです。


Male cardiovascular mortality and dietary markers in 25 population samples of 16 countries. J Hypertens. 24:1499-1505, 2006. Yamori Y et al.


本当の悪玉は酸化したLDLコレステロール

生体においてホルモンの原材料となり細胞膜の構成要素となる脂肪。脂肪は生命の潤滑油でありエネルギーの源でもあります。検診で悪玉と呼ばれるLDLコレステロールも、元来は、肝臓から細胞や組織に必要なコレステロールを運ぶ役割を果たしています。ただ、日常の食事が動物性食品に偏ると、LDLコレステロールが動脈壁にたまる、さらに酸化ストレスをうけて酸化LDLコレステロールに変化すると、白血球の一種であるマクロファージに異物として取り込まれてアテロームになり、動脈硬化が急速に進行する、ここに問題点があります。


酸化ストレスとはエネルギー代謝の過程で発生する活性酸素が身体の細胞を傷つけること。LDLコレステロールには酸化されやすい多価不飽和脂肪酸が含まれますが、食品中の脂質は長期間保存されたり、安易に電子レンジで加熱されると酸化コレステロールが増えてきます。地中海の食事は、豊富な野菜や果物、またナッツなどの栄養成分が総合的に抗酸化作用を発揮しますが、日常、調理用油としてオリーヴオイルを常用することが食品の酸化防止に役立っています。


オリーヴオイルが動脈硬化予防に役立つ理由をまとめます。

1 オレイン酸(一価不飽和脂肪酸)を豊富に含む。オレイン酸は酸化しにくく加熱に強いので、揚げ物炒め物など調理用油として最適。

2 飽和脂肪酸は少ししか含まない。LDLコレステロールを増加させない。

3 必須多価不飽和脂肪酸(リノール酸、リノレン酸)は必要量含む。

4 抗酸化物質が豊富である。ビタミンE、βカロチン、ポリフェノールはLDLコレステロールが酸化されることを防ぐ。


退院したクリントン氏の記者会見

ステント治療が無事終わり、ニューヨーク郊外の自宅に帰宅した際のクリントン氏の記者会見をTVで見ましたが、命を脅かす心臓発作から回復して再び仕事に戻れる喜びに溢れていました。そして今後もハイチの国連特使という重責を負いながら、どのように心臓病の再発を予防すべきか、模範的な回答をクリントン氏が語ってくれていますので、そのインタビューを皆さんに御紹介します。これはいつも夫妻で食談会に参加してくれている友だちでアメリカ人のリチャード・メイさんに読んでもらいましょう。


メイ氏、拍手に応えて立ち上がり、英文のインタビュー記事を読む。


"For me, everyday is a gift and I think that life wants to be lived and I love this work I do. ・・・I just have to be more careful, careful about what I eat and careful about taking my medicine.  I have to work harder to carve out days for exercise when I 'm busy  and I've got to sleep a little more  and I'm doing that."

(私にとって毎日は贈り物であり、私の生は生きることを欲し、私はこの仕事が好きだ。・・・私にはもっと注意深さが必要で、食べる物に注意し、服薬に注意して、忙しいときにも運動する時間を作るよう努力をし、睡眠ももう少しとらなければならない。でも今はそれを実行しているよ)



ーーアメリカ大統領になりきったメイさんのスピーチに、一同盛大な拍手。
この日の講演は無事終了し、お待ちかねの会食となりました。なお、この食談会の内容は「美味しくて健康的で太らないダイエットなら地中海式」佐々木巌著、大学教育出版 に詳しく記載されています。 

 

この文章は2010.2.27に行われた、第五回地中海式ダイエット食談会の講演内容をまとめたものです。

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