彩り豊かな地中海の食事とアルツハイマー型認知症

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地中海スタイルの食事が認知症を予防するかもしれない

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本日は第7回地中海式ダイエット食談会にようこそおいで下さいました。今日は最近報じられたアメリカABCニュースの一こまからご覧頂きます。それは高齢者に多い脳卒中(Stroke)や認知症(Dementia)が日常の食事で予防できる可能性がある、という報道です。まだ100%というわけではありませんが、栄養バランスのよい食事、その一つのモデルとしての地中海スタイルの食事を続けることで、誰もが関心の高い認知症の予防が可能になるかもしれないのです。


始めに注意しておいていただきたいことは、脳の重量は体重のわずか2%(体重60kgの人なら脳の重量は1.2kg)ですが、身体全体で消費されるエネルギー(ブドウ糖)の18%が脳で消費されています。つまりこれほど脳は大食漢であるということ、また脳組織の成分をみると、脳重量の半分の50%は脂質からできているという二点を覚えておいてください。

 

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皆さんご存知のとおり、日本人の平均寿命は世界一で、男性79歳、女性86歳ですが、高齢化とともに認知症患者さんの割合は確実に増えています。現在85歳以上の高齢者の26%に認知症が認められるという報告があります。認知症の内訳をみると、第一位はアルツハイマー型で、以前多かった脳血管性認知症を上回っています。神経の変性疾患であるアルツハイマー型認知症が増えた原因として、生活習慣の変化が重要視されており、とくに肉食に代表される食の欧米化との関わりが指摘されています。


ほんとうに食生活がアルツハイマー病と関わっているのか、そのことを考えるヒントとして、最近、中年期の高血圧や脂質異常症が、老年期にアルツハイマー型認知症を起こしやすいという事実がわかってきました。


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スライドにあるように、これまでは高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの心血管系危険因子は、脳動脈硬化に基づく脳血管性認知症のみを発症させると考えられてきました。ところが、高血圧を積極的に治療することによって、認知症、とくにアルツハイマー型の発症が減少することがわかりました。さらに糖尿病患者ではアルツハイマー型認知症になる確率が2倍になるという研究報告も出ています。

肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧は、食の欧米化とよばれる近年の食生活の変化との関わりが深い生活習慣病です。これらの病気は、老年期に多い脳卒中を介して脳血管性認知症を発症するだけでなく、神経の変性疾患であるアルツハイマー型認知症を発症(進行)させるリスクも持っています。こうした事実が、食生活とアルツハイマー病のあいだにも、何らかの因果関係があることを強く疑わせるのです。

Prevention of dementia in randomised double-blind placebo-controlled Systolic Hypertension in Europe (Syst-Eur) trial. Lancet 352:1347-51. 1998

Diabetes mellitus and the risk of dementia The Rotterdam Study. Neurology 53:1907-9. 1999



アルツハイマー病は"老人斑"が原因で起きる

正常な脳の神経細胞は、神経細胞体から細長い軸索が伸びて、それが次の神経細胞と連なることでネットワークを構成しています。神経細胞と神経細胞がつながる部分はシナプスとよばれ、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質を受け渡すことで信号を伝えています。アルツハイマーの人の脳組織には"老人斑"と呼ばれる染みができることによって、シナプスが破壊されて脳の神経回路に異常をきたします。この老人斑は、もともと脳の神経細胞の形成にとって必要なアミロイド蛋白が変性してアミロイドβ蛋白となって、神経細胞外に沈着したものです。


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なぜ正常な神経細胞が変性を起こすのでしょうか。スライドを見ていただくとおわかりになるように、アルツハイマー病になりやすい遺伝的素因(ApoE4)がある人に、加齢、酸化、炎症、脳血管障害などの要因が加わることによって、アミロイドβ蛋白(老人斑)が形成されると考えられています。


アルツハイマー病の遺伝要因についてお話します。全ての人は両親から一つずつ、アポリポ蛋白E遺伝子を受け継いでいます。もともとこのアポ蛋白はコレステロールの代謝に関わっており、E2、E3、E4と3種類ありますが、E4を二つ持った人は、アルツハイマー病になる確率が5倍になります。しかし全ての人が発病するわけではなく、発症率は25%です。その理由として環境要因としての食事(Diet)の影響が考えられているのです。

Diet and Alzheimer's Disease. Curr Neurol Neurosci Rep 7:366-372. 2007



脳の老化はなぜ起きるのか

アルツハイマー病のような脳の変性疾患と食事の関係を考えるとき、一般論として、脳の老化は何が原因で起きるのかを考える必要があります。まず第一に考慮すべきは、脳に栄養不足が生じていないかどうかという問題です。冒頭で申し上げたとおり、体重のわずか2%にすぎない脳は大量のブドウ糖をエネルギーとして消費しています。たとえば、脳の動脈硬化が進行して血管が詰まり、血流が途絶えれば、栄養(ブドウ糖)と酸素が脳神経細胞に運ばれなくなり、脳は栄養不足に陥るので、脳の老化が進行します。


脳の老化が起きる第二の原因は活性酸素(フリーラジカル)です。大食漢の脳がブドウ糖を酸化してエネルギーを生産する過程で、大量の活性酸素が発生します。加齢とともに身体に備わる抗酸化機能が低下すると、活性酸素が脳の神経組織、とくに脂質に富んだ軸索を包む髄鞘や、シナプスの神経細胞膜を傷つけることで、神経回路の機能が劣化します。それを予防するのは食事から摂る坑酸化物質の豊富な食べ物です。


このような理由で、脳の神経細胞が正常に活動するために日々の食事から得られる栄養がいかに大事かということがおわかりいただけると思います。食べ物が消化されて、穀物などの炭水化物はブドウ糖に、肉や魚のタンパク質はアミノ酸に分解されて小腸から吸収され、門脈を介して血流に乗ります。脂肪は脂肪酸まで分解された後、中性脂肪(カイロミクロン)に再合成され、腸管リンパ管を経て静脈に送られ、最終的に脳に供給されます。アミノ酸は神経伝達物質の原料となり、脂肪酸は神経細胞膜の材料です。つまり、毎日どんな物を食べているかによって、エネルギー代謝、新陳代謝が盛んな脳神経細胞の機能に差が生じてくるのです。



疫学調査からみた食習慣と認知症の関係

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今から13年前、1997年に行われたロッテルダム研究から今日に至るまで、スライドに食生活と認知症の関係をまとめてみました。偏食をしない、野菜や果物をよく食べる、肉を摂りすぎず、魚をよく食べることが認知症予防に大事なことがわかります。脳の半分は脂肪から出来ていると最初に申し上げました。脳の神経細胞の機能を良好に保つために、日々の食事からどんな脂質を摂っているかが、認知症予防の鍵になります。


豚や牛など獣肉の脂は飽和脂肪酸が多いのが特徴です。飽和脂肪酸はすべて水素で飽和結合し、常温で固まりやすく、一方、不飽和脂肪酸は結合部位がすべて水素結合しておらず、柔軟性があり、脂のそのような特徴が神経細胞膜の性質に影響を与えるのです。魚油の不飽和脂肪酸には、EPA(n-3系多価不飽和脂肪酸)が豊富で、これが脳に達するとDHAとなり、シナプスの発育を促すので、成長期の子供は魚を食べると頭がよくなると言われるのです。また魚油には坑炎症作用や坑アレルギー作用があり、神経細胞の変性を予防します。


2007年に発表されたニューヨーク市民を対象とした4年間にわたるコホート調査の結果では、地中海の食事にもっとも忠実な人は、もっとも忠実でない人と比べて、アルツハイマー型認知症の発症リスクが40%低いことが分かりました。この研究はその後フランスでも追試され、そこでは、地中海スタイルの食事を続けている人では認知機能の低下が緩やかだったと報告されました。

Mediterranean Diet and Risk for Alzheimer's Disease. Ann Neurol. 59:912-921, 2006

Adherence to a Mediterranean Diet, Cognitive Decline, and Risk of Dementia. JAMA. 302:638-648, 2009



どんな食事がアルツハイマー病を予防するのか

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アルツハイマー病を予防する食事でもっとも大事なことは、神経の変性(老人斑)の引き金となる活性酸素の働きを抑えること、すなわち、坑酸化作用のある食べ物をよく摂ることです。ビタミンE、ビタミンC、βカロチンを含む野菜や果物があげられます。いつもご覧いただく地中海式ダイエットのピラミッド(クリック)の下2段目にある彩り豊かな食品をご覧下さい。


毎日(Daily)食される食品に含まれる穀物の胚芽部分や、ナッツ、豆類も坑酸化作用のあるビタミンEを豊富に含みます。また、日常使われるオリーヴオイルには天然型の良質なビタミンE(αトコフェロール)が、抗酸化物質であるポリフェノールと併せて含まれています。


魚介類は週に数回(Weekly)摂るとよいとお話ししました。EPAは日本人が好む青魚(まぐろ、いわし、さば、さんま、さけ)に多く含まれます。神経機能を高めるビタミンB12は牡蠣などの魚介類と肉類、同じく葉酸は菜花などの葉野菜と肉類に多く含まれます。肉は飽和脂肪酸を多く含み、動脈硬化の原因であるLDLコレステロールを上昇させるので摂り過ぎは禁物ですが、やはり必要な栄養素を含んでいるのです。


最後に赤ワイン。赤ワインにはレスベラトロールという抗酸化作用の強いポリフェノールが含まれます。これが活性酸素から神経細胞を守るのですが、適量のアルコールには動脈硬化を予防するHDLコレステロールを上昇させ、また血栓形成(血小板凝集)を抑制するなど、脳梗塞予防に対して好ましい効果もありますので、アルコールは赤ワインでなければいけないという理由はありません。



食事以外にも認知症の予防は可能か

地中海式ダイエットのピラミッドの土台に、運動(Daily Physical Activity)があります。日常運動習慣のある人は、アルツハイマー病になりにくいという報告がでています。これは食事と併せて相乗効果をもたらします。次回はどんな運動(レクリエーションとしての身体活動)をどのくらい行うと認知症の予防効果が期待できるのかについてお話しします。




この文章は2010.11.27に行われた、第7回地中海式ダイエット食談会の講演内容をまとめたものです。なお、この食談会の内容は「美味しくて健康的で太らないダイエットなら地中海式」佐々木巌著、大学教育出版 に詳しく記載されています。


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